【食材を捨てて〈煮汁〉を売れ】ブランドの成長は「にじみ出るイメージ」で決まる(ロンドン大学)

ブランドイメージはにじみ出るもの

成功したいなら、食材を捨てて〈煮汁〉を売れ。

そう言われたら、あなたはどう思いますか?「食材を捨てるなんてもったいない」と思うはずです。私もそう思います。頑固おやじに平手打ちされそうです。

でも、しかたがありません。

なぜなら、ロンドン大学のマーケティングの教授にそう言われたのですから。

ごめんなさい、少し訂正します。

ロンドン大学のマーケティングの講義から、私はそんなメッセージを受け取りました。

成功したいなら、食材を捨てて〈煮汁〉を売ればいい。

食材は捨てて〈煮汁〉を飲ませろ

会社のブランディングでは、多くの人が〈食材〉にこだわりすぎています。

ブランディングの価値を決めるのは、実は〈煮汁〉です。

「文字通り」を捨てて「そこからにじみ出るイメージ」にフォーカスするということです。

どういうことか、例を見てみましょう。

「にじみ出る」方向にシフトしたブランド

世界的に有名な企業がブランドイメージの調整を行っています。

さて、どのように〈煮汁〉に焦点を当てているのでしょうか。

例1)UPS

UPSの以前のモットーは「What can brown do for you」でした。

日本語では「ブラウン(茶色)があなたのためにできること」という意味です。

茶色という色をブランドに強く使っていました。非常に視覚的です。色とブランドをリンクするのも一つの戦略ではあるものの、にじみ出るイメージは特に感じません。

そこから「United Problem Solver」にシフトしています。

「UPS」の頭文字を使ったものです。「Problem Solver」という部分が直球で「問題を解決する」という価値感を表現しています。

つまり、顧客目線へのシフトです。

ただの「茶色の会社」というイメージからの脱却です。そして「顧客にとってどんな経験を提供できるか」にフォーカスしています。興味深い例です。

例2)BP

BPはイギリスの石油・ガスなどを扱う会社です。もともとは「British Petroleum」という名前でした。

「British Petroleum」は文字通り「イギリスの石油(会社)」です。あまりにも「そのまま」です。ここから「にじみ出るイメージ」は特にありません。

その後選ばれたメッセージが「Beyond Petroleum」です。これの直訳は「石油の向こう側へ」です。つまり「Green energy(グリーンエネルギー)」にフォーカスしています。

「環境に配慮した会社である」というメッセージです。

UPSもBPも価値中心にシフト

どちらにも共通しているのが「文字通りのもの」から「言葉からにじみ出るイメージ」への意識の切り替えです。これこそが肝です。

食材を捨てて〈煮汁〉を売るとは、まさにそういうことです。

「にじみ出て」大きな成功をおさめたブランド

パンパースも「にじみ出る」ことで成功をおさめました。

「オムツ」で「にじみ出る」というとダメなように思えますが、これこそが成功の鍵です。

P&Gのパンパース

P&Gのパンパースは、世界的大手のオムツブランドです。赤ん坊を育てた経験のない人でも、どこかでパンパースという製品名を聞いたことがあるのではないでしょうか。

パンパースというひとつのブランドの成功例をご紹介します。

パンパースは「オーガニックグロース(organic growth)」だけで素晴らしい変化を起こした好例です。その成長を支えたのが、再び「文字通りのもの」から「言葉からにじみ出るイメージ」への意識の切り替えです。

ブランドの「関連性」獲得のために何をしたのか?

パンパースは以前、業績の面で不調でした。今のような成功を楽々手にした訳ではありません。うまくいっていない時代があったのです。その時に「なんとかせねば」と改革が起きます。

そして、パンパースは「関連性(relevance)」に注目しました。簡単に言えば、どれだけ顧客に近づけるかです。そして、利用者についての理解を深める調査を開始します。

顧客の生活を掘り下げた

特に「何が母親を動かすのか」理解しようと努力しました。

ただオムツを買うことだけでなく、母親という顧客層全体の理解を深めることです。

その中でも特に最初に母親になったばかりの人に焦点を当てました。この顧客層の細分化(細かなペルソナの特定)については、授業で触れられてはいませんでしたが、これも重要です。

その結果わかったのが赤ん坊の健康

顧客に寄り添った結果、赤ん坊の健康がとにかく重要視されていることがわかりました。

その後のステップとして、パンパースは「赤ん坊の健康や成長」と「オムツ」という製品をどのように「関連性のあるものに(relevantに)」できるかと考えました。

つまりこういうことです。

  • 顧客の特定→新しく母親になったばかりの人
  • その人の関心事の特定→赤ん坊の健康や成長
  • 関心事と製品の関連付け→「オムツ」を「赤ん坊の健康や成長」の代名詞に

今までの性能メインの考えからの脱却

その結果、こんな変化が起こりました。

それが性能から利用者の関心事へのシフトです。

  • 今まで→性能としての「ドライであること(dryness)」
  • 変化後→オムツを利用することでどれだけ赤ん坊の健康や成長が促進されるか

そして、オムツがいかに赤ん坊の健康や成長のためになるか、ちゃんとした理由が必要です。

これがどう健康に関わるかというと、研究で赤ん坊の睡眠を改善することが明らかになりました。オムツの「ドライであること(dryness)」という特性が、睡眠改善、ひいては健康につながったのです。

そして、こんな転換を図りました。

「ドライであること(dryness)」から「よりよい睡眠(Better sleep)」への切り替えです。

※以前の「性能」には焦点が当てられていないところがポイントです。

つまりこれは、「文字通りのもの」から「言葉からにじみ出るイメージ」への意識の切り替えです。性能はどれだけ凄くても、利用者にとっては「それで何?」で終わってしまいます。

だからこそ、利用者にどんなメリットが届けられるか(何がにじみ出るか)を強調する必要があります。

その後、シフトにあわせてブランドイメージ全体の調整が行われました。

ユニセフとパンパースの協働もありました。

明らかに「子供の健康に貢献していますよ」というイメージを強固にする戦略ですね。

もし「ドライなオムツです」という性能にこだわっていたら、ユニセフと協力することにはならなかったでしょう。

パンパースは「赤ん坊の健全な成長」を中心にしたことで…

  • ワイプ(ウェットティッシュ)
  • 石けん
  • などなど

…他の製品を扱うことにも成功しています。

これも素晴らしい展開の例です。というのも、製品だけを見ると、つながりがはっきりしません(なんとなくセルフケアサービスとは言えそうです…)が、実はどれも「赤ん坊の健全な成長」という価値感でつながっています。

そこには、にじみ出るイメージとしての圧倒的な一貫性が感じられます。

これは製品中心ではなく、価値を中心にしていることの顕著な例です。

これにより、パンパースはアメリカでハギーズを完全に押しのけてトップに立ちました。

補足

補足情報も簡単にご紹介します。

違うだけでは愛されない

「違いを持て」とはよく言われるものです。同じじゃ誰にも見てもらえない。

たしかにそうです。しかし、ブランドの話となると違うだけでは不十分です。見てもらえません。ただ奇をてらっているだけでは無意味です。

そこで大事になるのが価値ある違いです。何をもって「価値ある」というのかというと、お金を払うに値するものです。つまり「その違いになら、お金払うよ」というお客さんがいて、はじめて価値ある違いになるということです。

その価値には、いろいろなかたちがあります。数ある中でも強力なのが、顧客となる人たちの中にすでにある価値感に訴えかける方法です。

今回パンパースの例では、それがうまく実現しています。すでに顧客の中にある「赤ん坊/子供に健康に育ってほしい」という強い思い(関心事)に訴えかけています。

参考情報

今回の記事は、Couseraで提供されているUniversity of London/ロンドン大学の【1.4 Brand purpose】という講義を受講して学んだ結果を私なりに解釈しまとめたものです。