世の中のあらゆるものが<アテンション>を求めて動いています。
この時点で「?」が頭に浮かんでも問題ありません。一つ一つ解説します。
まずは、<アテンション>が日常のあらゆるところに存在しているという点から考えてみましょう。<アテンション>はあらゆる活動の土台です。
- ビジネス成功の第一歩が<アテンション>の獲得
- 自分を表現する第一歩が<アテンション>の獲得
- 人に話を聞いてもらうための第一歩が<アテンション>の獲得
<アテンション>とは簡単に言えば「注意、留意、注目」です。何をするにしても、まず注目してもらわなければいけません。
この記事を読んでいるあなたも、ある程度の注意をこの記事に向けています。タイトルが気になったのか、それとも、Googleで検索してたどり着いたのかはわかりません。しかし、少なくとも意識がこの記事に向けられています。
これこそが、あらゆる活動の出発点です。今回の記事では、この<アテンション>の重要性を扱いたいと思います。
まだピンと来ないかもしれませんので、気づきの瞬間まで時を戻してご紹介します。
ある日、GoogleのUX(ユーザーインターフェース)デザインについてのオンラインコースを受講しました。ユーザーインターフェースとは、アプリやウェブサイトなどで利用者に表示される画面のことです。これをどうやって使いやすくするかというテーマでした。
そこで、こんなフレーズに目が留まりました。
「attention economy」
「アテンションエコノミー」と読みます。注意を奪い合う経済社会という意味です。
広告があらゆる場所に表示され、SNSはできるだけ長く使ってもらうことを意識し、YouTubeのサムネイルはとにかく大量のクリックを求めて競う。「アテンションエコノミー」はそんな現代社会をきれいに表した言葉です。
すべてが、何を求めて動いているのか。そう、<アテンション>です。
繰り返しになりますが、<アテンション(「attention」)>とは日本語で「注意、留意、注目」を意味します。
私たちは、これを求め奪う巨大な経済圏の中に生きています。この重要性を無視していては何もうまくことなすことができません。
だからこそ、ひとつのスキルとして、または教養として<アテンション>について理解を深めておくことをおすすめします。
GoogleのUXデザインの講義で登場したアテンション
GoogleのUXデザインのコースでは、ユーザーが何を求めていて、どんな問題があって、それをどのように解決することができるのか、という話が展開されます。
問題がある。それを解決したい。そのためのデザインをつくろう。そんな思考です。
そんな学びにあふれた授業が文字と動画をメインに展開します。
そして「Build Wireframes and Low-Fidelity Prototypes」というコースの中にある「Understand ethical and inclusive design」というテーマにたどり着きました。
その内容はいかに「エシカルな(倫理的な)」デザインをするかという話です。
みんなの<アテンション>を大事にしよう
「エシカルな(倫理的な)」デザインについての講義が以下のように展開します。
最近、ちまたでは「deceptiveな(人を騙そうとする)」デザインがいたるところに存在します。例えば、チェックボックスが最初から「チェック済み」になっていたり、アカウント削除が面倒でしにくい設計になっていたり。
そんな状況に終止符を打つアイデアが、エシカルなデザインです。
これをGoogleが推奨しています。
Googleの説明をかみ砕くとこうなります。
私たちは「attentinon ecnomy/アテンションエコノミー」の中で生きています。あらゆる企業が<アテンション>を求めて競争する社会です。そんな中で、あまりに結果だけに目がいきすぎた結果、人を騙すようなデザインが横行しています。それに待ったをかけましょう。
<アテンション>には限りがある
私たちの<アテンション>には限りがあります。
一度にできることには限りがあるのはそのためです。
マルチタスクという言葉があります。複数のタスクを一度に行うということです。一度に多くをこなそうとする人はいるかもしれません。これが得意な人もいるでしょう。しかし人間は基本的に、無数の対象に無制限に注意を向けることはできません。
一度にできることには限りがある。人間の脳のつくりの基本です。
以下は『Organize your mind, organize your life』という書籍からの引用です。
Unlike the cable modem that can seemingly accommodate unlimited data, pictures and text, your personal capacity to handle data and stimuli has its boundaries. [p26]
Organize Your Mind, Organize Your Life: Train Your Brain to Get More Done in Less Time
【無制限にデータ、写真、テキストを扱えるように見えるケーブルモデムとは異なり、データや刺激を扱う個人の能力には限界がある】
一度にたくさんのことを処理しようとすると、全てが散漫になります。何にも集中できない状態です。これこそが、世界のあちこちで今起きていることです。
通知、メッセージ、広告、リコメンデーションなどなど。次から次へと情報の波が押し寄せます。これをさばくのは簡単ではありません。
<アテンション>の消耗が激しい現代社会
私はこれを<アテンション>の消耗だと考えています。パン生地のようにうすく伸ばされて、どこにも集中していない状態。そんな人が多いのではないでしょうか。
パンをつくるときには、生地をよく伸ばします。何回もこねるのですが、失敗して薄く伸ばしすぎると生地に穴が空いたりします。自分はパンづくりが下手なので、このミスを何回もおかしたことがあります。
<アテンション>も同じです。伸ばしすぎると、穴だらけになります。
かくいう私も、気を抜くとすぐに<アテンション>を奪う競争の餌食になってしまいます。
<アテンション>の欠乏=今を無視する生き方
個人的に<アテンション>の欠乏は、「今を生きていない」ことに他ならないと思っています。つまり、今目の前にあることに十分な<アテンション>を使えていない状態です。
例えば、こんな状況です。
- 仕事中にはYouTubeで小鳥のさえずりを聞いているのに
- 休暇で森の中に出かけた際にはイヤホンでヒット曲を聞く
どちらにも共通しているのが、今この場所を生きていないということです。常に「今のここにない何か」に<アテンション>が向けられています。
何かもったいないような気がしませんか?
鳥の声を聞きたいなら森を感じればいい。流行の音楽を聞きたいなら都会にいればいい。もちろん、仕事中に鳥のさえずりを聞くことにも、森の中で流行の音楽を聞くことにも、何も問題はありません。
ある意味で、いいとこ取りをしていると考えることもできるかもしれません。しかしながら、<アテンション>が<今>や<その場>からそれるのが当たり前の日常になることには、危険性を感じずにはいられません。
世界記憶力チャンピオンが激推しするアテンション
世界記憶力チャンピオンも<アテンション>の重要性を強調しています。記憶力を高めるために、以前に『Rember it!』という本を購入して読んだことを思い出しました。
この本は、世界的に記憶力の高さを競う大会で何度も優勝しているNelson Dellis氏が書いたものです。とても面白いのでぜひとも気になる方は読んでみてください。
本書の中では、物事を記録するためのさまざまなコツが紹介されています。例えば、数字に意味を持たせる、長い情報は分割する、物語をつくるなどです。その中でも第一の基本として挙げられているのが他でもない<アテンション>です。
Attention is a big part of memory. [p27]
Remember It!: The Names of People You Meet, All of Your Passwords, Where You Left Your Keys, and Everything Else You Tend to Forget
【注意力は記憶の大きな部分を占める】
つまり何事を覚えるにも、まずはそこに意識を十分に向けなければなりません。記録力を高めたい、でも全然覚えられない…とお悩みの方は是非とも考えてみてください。そもそも、十分な<アテンション>を対象に向けられていないのではないでしょうか。
いかに私たちがアテンションを無駄遣いしているか
私たちは、日々<アテンション>を無駄遣いしています。無駄遣いとは、意図していない対象への<アテンション>の使用です。
そもそも<アテンション>は2種類に分けることができます。前に登場した書籍『Organize your mind…』 [p81] の分類に従うと以下の通りです。日本語訳は自分が付けたものです。
- Goal-directed(目標指向型)attention
- Stimulus-driven(刺激主導型)attention
ここからは便宜上の日本語訳を使って話を進めます。
この2つの種類のうち重要なのが目標指向型です。自分が達成したいことや興味関心に関連することに意識的に向ける注意です。
もう一方の刺激主導型は救急車のサイレンや学校のチャイムなど、外部から飛び込んでくるものにより誘発される注意です。
理想は1の目標指向型<アテンション>を増やして日々を過ごすことです。例えばフランス語のC1(というレベル付けがあります)試験に合格したいので、フランス語の単語帳を集中して読むといった行為がこれにあたります。
目標を決める→そのために必要な行動を決定する→その行動を実行するという流れの中で、1の目標指向型<アテンション>が重要な意味を持ちます。
それを阻害するのが2の刺激主導型<アテンション>です。本を読もうとしても部屋の外を走る車のエンジン音や通り過ぎる人の話し声に意識を持っていかれる等が典型例です。この他にも、スマホの通知があるたびに集中が切れてしまうのもこれに該当します。
「SNS卒業」のすすめ
もし次に思い当たるふしがあれば、SNSとの関わり方を見直すことをおすすめします。
- 寝る前にスマホでSNSをチェックする習慣がある
- 起きてすぐにスマホでSNSをチェックする習慣がある
SNSには、<アテンション>をぎゅっと掴んで離さないコンテンツが詰め込まれています。これに日常的に触れていると、そこにばかり意識がとられて「SNS外での生活」がおそろかになってしまいます。数秒で切り替わるシーン、驚きの光景、恐ろしい映像、性欲や食欲に訴えかける投稿などなど。これを日常にしてしまうのはもったいないように思います。
さいごに
私たち人間にとって<アテンション>は大事な資源です。何をするにもこれが必要になります。勉強も仕事も家事も。すべてに<アテンション>が必要です。
もちろん、皿洗いをしながらポッドキャストを聴くといった時間の使い方はできるかもしれません。しかしそれは、単調な作業を行うときに限られます。単調で、脳の複雑な利用が求められない場合にのみ有効です。
あなたの貴重な<アテンション>を使って、この記事を読んでいただきありがとうございました。