ビジネスの場で話をしていると、業界(industry)と市場(market)の違いが曖昧な理解のままで話が進むことがある(または相手の方が違いを意識していないように感じる)ことがあります。この2つの言葉の違いは重要です。
Eastern UniversityのMBAで習った内容をもとに自分は、このように分けています。
業界と市場の違い
- Industry 業界=会社の集まり
- Market 市場=顧客の集まり
この解釈の違いが一番シンプルでしっくりきます。前者の業界は会社の集合体です。つまり、自動車業界はホンダ、スズキ、日産、マツダ、ボルボ、BMWなどの会社で構成されます。
後者の市場は顧客です。この顧客(customer)についても定義の確認が重要で、顧客はお金を払う人です。つまり誰がお金を払うのかということ。商品やサービスが誰かに提供され、それに対してお金を支払う人が顧客とみなされます。
顧客と受益者の違いも大事
顧客と混同されがちなのが(絶対に区別しておくことを推奨)受益者(beneficiary)です。難しく聞こえる言葉ですが概念はシンプルです。誰が便益を手にするかということです。ここでのポイントとして、必ずしも、お金を払う人と便益を手にする人が同じではありません。
例えば、ブログを運営しているとします。ブログが提供する価値は大抵、有益な情報と定義することができます。つまり便益は特定の役に立つ情報です。この情報(便益)を受け取るのが誰かというと、ブログ読者です。それでは、読者はお金を払うでしょうか。通常は払いません。完全に無料です。
では、誰がブログ運営者に対してお金を払っているのか。答えは多くの場合、広告主です。例えばGoogle Adsense(アドセンス)という広告マッチングサービスを使って広告を掲載しているのであれば、Googleが直接の顧客になります。
間接的な顧客を理解することも欠かせない
先の話をもう少し進めると、実はGoogleの裏には他の顧客(お金を払う人)がいることがわかります。それが広告主です。例えば、ブログに住宅ローンの広告が表示されたとすると、その住宅ローン広告を出した人が実際にお金を払った人になります。それを仲介したのがGoogleと考えることもできます。
そのような意味で、ブログの直接的な顧客はGoogle(ここではアドセンス)ですが、そのお金は広告主が支払ったもので、Googleはあくまでも仲介サービスをしたことになります。このように「そのお金はどこから来ているのか」と調べることで、次から次へと「事業者と顧客」という連鎖が見えます。
連鎖の視覚化が業界理解の基本
事業者がいて、その事業には顧客がいて、その顧客は実は事業者でもあり、その事業者にはまた顧客がいる。これが繰り返されて業界が成立します。ここでわかるのは、会社は商品やサービスを提供するだけの一方的な存在というわけではなく、他の別の会社の顧客になり得る(むしろそうであるのが基本)ということです。
つまり、会社が価値を提供し、一方で別の誰かにお金を払うという役割を果たします。価値のハブだと考えるとわかりやすいかもしれません。他の事業者から何かを受け取り、それに価値を足して、別のものやサービスとして提供することの繰り返しです。このようにして業界(会社の集まり)は成立しています。
もちろん価値の創出のためのつながりだけではなく、会社はお互いに競争もします。別の会社が市場(顧客の集まり)に提供する価値を上回る何かを生み出すべき切磋琢磨を続けます。
このような協力や競争を動的に展開する会社の集まりを可視化してみるのがおすすめです。どの業界を調べるにしても、会社から別の会社に線を引いて、そこにどんな関係が成り立っているのかを考えると業界についての理解が一気に深まります。
市場の大きさはどうかという議論
ここまでの話を踏まえて、こんなことを考えてみましょう。市場の大きさについてです。どんな新規事業を議論する際にも、市場の大きさはどうなのかという点に焦点が当てられます。ここでいう市場とは何でしょうか。そうです、すでに整理しながら理解したとおり「顧客の集まり」です。
つまり「そこに十分な市場はあるのか」という問いが立てられたら、「お客さんは何人いるのか」と読みかえることができます。さらに噛み砕いて「お金を払う人がどれくらいいるの?」という問いだと理解してもいいでしょう。これを論点にするのは至極当然です。なぜなら、ビジネスにお金は欠かせません。ビジネスという生命体を動かすための血液です。
その生命体を創り出す前に、血液は確保できるのかと問いかけるのは重要なことです。そのような理由で、どのような新規事業を計画する際にも、市場規模が綿密に調査されます。