人はいつ支払いを拒否し、いつ喜んでお金を払うのか

モロッコのある村でこんなトラブルに見舞われました。道路の陥没です。大雨が降ったあとで道路が水浸しになっており、どこに穴があるかわからないという難易度の高さ。そんな道を車で進む(私は同乗していただけで、運転はモロッコ人)ことがありました。その時の経験から、人はどのタイミングで支払いを行う傾向にあるのかを考えることになったのでご紹介します。

まずは状況の説明をします。ある村の道を車で進もうとしています。大雨が前日に降り、冠水状態です。道路の特定のエリアが全幅にわたって水でいっぱいになっています。そのエリアを通り過ぎようとしたところ、地元の人が話しかけてきました。

どうやら、水でいっぱいの道路に穴が空いているとのこと。あたり一面が茶色い水なので、どこにどの程度の穴が空いているかわかりません。地元民の誘導に従って、無事に通り過ぎることができました。これが1日目の話です。

後日、またこの村を通過することがありました。その時には、少しだけ状況が変わっていました。水の量が減っています。道路のどこに穴が空いているのかわかる状態です。そして、前回は地元民が大人だったのに対して、今度は子供がたくさんいました。

穴のあるエリアに差し掛かった時に、子供数名が駆け寄ってきました。どうやら道を案内するからお金をくれという話だったようです。運転手は断りました。先に進みます。すると、穴がある場所に辿り着きました。穴がぽっかりと空いているのが目視できます。そこに水が溜まっています。それを回避するように慎重に進んでいると、別の子供が現れました。その子が走りながら、車を先導します「こっち、こっち」と手で誘導します。それに従って車が進みます。

そして、無事に穴を回避したタイミングで、その子供が「じゃあお礼にお金を」と言わんばかりに手を受け皿にして伸ばしてきました。これに対し、運転手は小銭を渡します。この時の「支払い」は非常にスムーズで「でかしたぞ」というほどの、積極的な支払い意欲を感じました。

続いて、少し進むと、別の子供がやってきて「ここを去る前に、もう一声」という具合にお金をねだりました。運転手はキッパリと断りました。これで、村を無事通過していきます。そんな一連の流れです。興味深いのは、三箇所での支払いに対する意欲の明らかな違いです。

3つのステージそれぞれで認知される価値の大きさが異なることを示した画像(子供, 穴, 車のイラストとグラフ)
3つのステージそれぞれで認知される価値の大きさが異なる

詳しくは以下でご紹介します。

第一陣の子供

最初に現れた子供は「これから案内するからお金を」というアプローチでした。これに対し、運転手は難色を示しています。というのもここでは「期待への対価」という判断基準が使われています。子供が案内することをサービスとすると、それが提供されていない状態で「購入後にはこのようなサービスを提供しますよ」という「約束」だけが存在します。

その「約束」を提示された運転手は不要だと判断しました。それもそのはず、道路に空いた穴がどれくらいか、少なくとも今の状態を把握していないからです。つまり、問題が顕在化していない状態です。確かに前の日に大変だったことは経験済みですが、現在差し迫って危険や問題を感じてはいなかったのだと予想できます。そこでサービスの提供が打診されても、そこには大きな魅力や必要性を感じなかったのは自然なことです。

第二陣の子供

続いての子供は秀逸でした。お金を求める前に、問題に対処しました。目の前には、穴という問題があります。それを運転手は目にしています。その瞬間に子供が現れ、率先して問題(=穴)回避の方法を提示(=穴にはまらない道すじを提示)しました。そこには、実質的な価値(=穴に落ちずに済んだ)が介在します。無事に穴を通り過ぎたところで、お金を受け取る仕草をしました。完全に価値を提供した後に、それに見合った報酬を求めたということです。

これに対して運転手はためらうことなく小銭を手渡しました。

第三陣の子供

第三陣の子供については、時すでに遅しです。すでにサービスの提供(=穴の回避)と報酬の引き渡し(=小銭の手渡し)が終わっています。つまりは契約の満了です。等価交換(=少なくとも、運転手の妥当と思う金額の支払い)が終わっているため、その後で子供が現れてお金をせびっても、何も意味がありません。特に、その子供は価値の創出(=穴の回避というベネフィット)に貢献していないため、むしろ煙たがられます。

さいごに

今回はモロッコの南部の村での思わぬ事態を通して、サービス提供のステージごとにどれだけの支払いインセンティブが生まれるか(どれだけ払う気になるか=どれだけ払うことに抵抗を感じないか)という人間の心理を垣間見ることができました。ビジネスを営む立場になった時には、ここからの学びを活かすことができます。

まずは約束の販売(〇〇をするから、〇〇を払って)であれば、その約束に伴うリスク要因をしっかりと理解した上で、買い手の不安を解消する工夫をしなければなりません。このようなスタイルの商売(コンサルティングなど)では、期待に対してお客さんがお金を支払います。そのため、何が手に入るのか(理想的には、どんなメリットがあるのか)をはっきりと理解してもらう必要があります。第一陣の子供はそれができていませんでした。さらに、第一陣の子供について言えば、問題の定義もうまくできていなかったかもしれません。というのも、人は自分ごととして認識できない問題を、本当の問題とは考えません。切実なものとして認識されるように「あなたにはこんな問題があります」という定義を改善する余地があったのではないでしょうか。

第三陣の子供は、サービスの提供に関与していないことから、ただのフリーライダー(便乗する者)として認識されました。今回の例でも、キッパリと断られていました。商売の基本である「あなたが価値を提供してくれたから、あなたに払う(これは個人単位にも会社単位にもなり得る)」という交換の原則に従っていなかったことが問題でした。

商売をするのであれば、是非とも第二陣の子供のように振る舞いたいものです。まずは問題に直面している顧客を相手にすること。問題を実感できている状態であれば、お客さんはそこに痛み(=ペインポイント)を感じます。その痛みを取り除くために、できることを何でもしようとするのが人間の性質です。そこで、解決策としてサービスを提供します。