論点から真っ先にお伝えすると、メルマガ解除のリスクはあなたが思うよりも大きいという話です。先に簡単な図をご紹介します。メルマガの購読解除があるたびに、この図のように考えることが肝になります。

これについて順を追って説明します。
マーケティングに関わる人が直面する問題。それが、宣伝の具合です。宣伝をしなければいけないことは多々あります。例えば、会社の方針でどんどん売らなければいけない場合です。しかし、ただ強く宣伝を続ければいいわけではありません。お客さんからすれば、売り込まれていると思えば思うほど、その会社が嫌になるものです。
メルマガの場合を考えてみましょう。メールマガジンに登録してくれた人はよくリストなどと呼ばれます。ビジネスからすればお客さんになってくれる可能性のある、大きな可能性を秘めた人々のデータです。これが手元にあると、この人たちに宣伝(特に割引のプロモーションなど)を送ることが、小手先の戦術として頭に浮かびます。決してこれが悪いわけではありません。しかし、度が過ぎるとメルマガを受信する人たちに嫌悪の念がたまっていきます。この嫌悪感は目に見えません。それがあるレベルに達すると、購読停止というかたちで会社が悪夢を見ることになります。
これを「悪夢」だととらえられているのなら、まだ立て直せる可能性はあります。この購読解除をなんとも思わないのは危険です。潜在顧客がどんどん「嫌悪蓄積」→「離脱」の道を辿っているのを眺めているだけでは、事業の未来が心配です。
メルマガの離脱は潜在顧客を失うことを意味します。メールを受け取る人が1人減ったという理解では、少し表層的です。これをさらに一歩進めることをお勧めします。そしてたどり着くのが、「とてつもなく大きかったかもしれない機会の損失」です。決して悲観的になることを推奨しているわけではありません。しかし、気にしないのは禁物です。有効なアプローチとなるのが、「その人がお客さんになっていたら、生涯トータルでどれくらいの価値があっただろうか」と考えることです。
これをLTV(Lifetime Value)やCLV(Customer Lifetime Value)と呼びます。顧客の生涯価値を考えるというものです。あらゆる商売に言えることですが、お客さんとの接点が1回だけとは限らず、むしろ継続的なやり取りがない方が不自然なくらいです。
ここでもう一度、冒頭の図に戻ります。

メールを開封した人、顧客になった人(メルマガから購入に至った人)、購読を解除した人…というように、さまざまな数字を追跡します。よくある指標が並んでいますが、その一つが購読解除です。この購読解除1人につき、いくらの損失が出たのか。これを考えることが重要です。これを推し量るには当然データが必要になります。ただの予想では意味がありません。
過去にすでにメールから購入まで至った人がいればそのデータが有用です。その人がいくらの商品を購入したのか。そして、どれだけ購入を繰り返したのか。数回の購入があるならば、合計がいくらか。サブスクリプション系のサービスであれば、何ヶ月間契約が続いているのか。これを観察することで、1人あたりの生涯価値がわかります。
生涯価値が3万円だとします。このように数字のタグがつくことの意味は大きいです。購読解除があるたびに生涯価値3万円(になり得る)に値する顧客獲得の可能性が失われたと評価することができます。特にこれまで、コツコツと有用なメール配信をしてきたことで信頼を積み上げているのなら、その努力(=コスト)が無駄になったという意味でも、損失は大きくなります。
このように「顧客になっていたかもしれない人が失われた」瞬間に気を配ることが重要です。これは顧客が有限であるという考えとも密接に関係しています。ふるいにかけて落ちていく人には一切目を向けないという姿勢は改めるのがいいかもしれません。
最後にEastern University MBAでマーケティングを教えるJeff James教授の言葉をご紹介します。ある講義でふと耳にした一節です。目から鱗の落ちる洞察とはことのことだと思いました。
Most campaigns might measure the opt-out rate, but very few of them attach a value. 日本語訳: ほとんどのキャンペーンでオプトアウト率が測定されているかもしれないが、これに価値(値)を付加しているものはほとんどない。
自分が長々と説明したきたことがいかに冗長であるかを物語る、端的でわかりやすい言葉です。ただの離脱(オプトアウト)で終わるのではなく、そこにどれだけの金銭的価値が紐づけられるのかを考える。これを行うことで、これまでにない深い分析、そしてマーケティン戦略づくりができそうです。